無線室ってどこかな?
おっと、目の前にあるじゃありませんか!
キャプテンの部屋を出ると、すぐ目の前に[RADIO OFFICE」
のプレートを張った部屋が目に入りました。
扉もあいていて、中の無線設備が、目に飛び込んできました。スゲー!
こんな無線機、家にあったらいいのにな~、メイン受信機とサブ受信機そして
メインの送信機は、出力1KW、補助送信機で50W、それからFAX受信機や
オートアラーム(遭難信号を受信すると、アラームが鳴るもので、通信士2名体制
のときの、執務時間外にスイッチを入れておく)そのほかにも色々な機械類が
整然と並んでおります。
机の前では、局長さんらしき人が、なにやら書類を整理しております。
「こんにちは、交代でやってきました3等通信士の伊藤です。」
「ご苦労様、今、次席さんを呼ぶからちょっとまってて」
"次席さん"とは、2等通信士の事です。しばらくすると次席さんがやってきて
自室に案内してくれました。着替えをすませて無線室に向かいます。
ここでちょっと説明しておきますが、私はこの次席さんが休暇で下船するので
その交替として、本船に乗り込んできたわけです。
したがって、「3等通信士」として辞令を受けておりますが、通信士は、通信長と私の
2名しか居りませんので「2等通信士」としての職務をするわけです。
しかしながら、海技免状(甲種船舶通信士、現在は「1級海技士(通信)」という)を
もっておらない新米なので、海員名簿には「員外通信士」と書かれ、雇い入れを
されるわけです。なんとも複雑な職名であります。
ま~とにかく、新米の見習い通信士でありまして、見るもの聞くもの全てが、
"ちんぷんかんぷん"であることだけは確かです。
さて、前任の次席さんに連れられて、各部署(甲板部、機関部、事務部)への挨拶
回りも無事終わり、次はいよいよ無線部の引き継ぎです。
無線室の中では、無線機の操作のしかた、FAXの受信のしかた、それから"SOS"
の自動送信装置の動かしかたなどを教わったり、無線室以外では空中線の状態や
バッテリーの保守、点検についてや、はたまた"PX"(船内販売)の倉庫やその
棚卸しについてなど、いろいろと説明を受けました。
「いや~、通信士って、無線だけやってればいいと思っていたけどこんなことまで、
やるのか~」と、今更言っても始まりません。
次席さん、親切に教えてくれましたが、なかなか一度では覚えきれません。
そーこーしているうちに次席さん「それじゃ~頼みます」といって下船して
しまいました。
ところで、前回、船舶部員の通称を書きましたので、今回は、船舶職員の職名と
その通称を書いてみます。
職名 通称
船長 CAPTAIN キャプテン
一等航海士 CHIEF-OFFICER チョッサー
2等航海士 2ND - OFFICER セカンドオフィサー
3等航海士 3RD - OFFICER サードオフィサー
機関長 CHIEF-ENGINNER チェンジャー
一等機関士 1ST - ENGINNER ファッセンジャー
2等機関士 2ND - ENGINNER セカンドエンジャー
3等機関士 3RD - ENGINNER サードエンジャー
通信長 CHIEF RADIO OFFICER 局長さん
2等通信士 2ND RADIO OFFICER 次席さん
と、まあこれらの人が「船舶職員」と言うわけですが、先に説明した乗組員の皆さん、
「ボースン」とか、「ナンバン」などの「船舶部員」とは、なにが違うのでしょうか?
両者とも、同じ人間です、別に何も変わるところはないのです。
しかし、しかしです、船の中と言うのは極めて封建的な社会でして、この辺の区別が
まるで軍隊のようにはっきりとしているのです。
昔の軍隊で言えば、職員は「士官」、部員は「下士官、兵隊」であり食堂も「職員用」
と、「部員用」が有ったり、タンカー等にある「スモーキングルーム」(タンカーでは
危険物(原油)を積んでいる関係で、スモーキングルーム以外での喫煙は、許可されて
いません。)もやはり、2つ有ります。その他、細部に渡り、細かな区別(差別)が
されております。
もっと昔は、職員に於いても「サロン士官」(船長、機関長、一等航海士、一等機関士
そして通信長)と「メスロン士官」(2、3等航海士、機関士、通信士以下の職員)
も食堂が別れており、一つの船になんと、3つもの食堂や休憩室が有ったそうです。
何とも、無駄なことでしょう。しかし、これが船の社会なのです。
そんなことも、全然知らずに、「これで思う存分トンツーができるわい」などと
甘い考えで、乗船してきた私こと「新米通信士」にこれから、いろいろな
アクシデントが、待ち構えておりました事は、皆さんにも軽~く想像がつくことでしょう
・・・・・・・・・・・・・・・・・・続く